大判例

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東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)13号 判決

原告主張の審決の取消事由の有無について検討する。

1 成立に争いのない甲第七号証によると、引用例には、フアクシミル信号をテレビ放送に多重する方法の一つとして、「再生をインターミツテント・モーシヨンによる垂直帰線の利用」という方法が記載されており、この記載をはじめその前後の記述を通読すると、これには、テレビジヨン・ビデオ信号における垂直帰線期間を利用してフアクシミル信号を間歇的に送信し、受信側においては、その再生のための運動(画像の再生に必要な走査)を送信に合わせて間歇的に行う技術が開示されていることが認められる。

もつとも、同号証によると、引用例には、送ろうとするフアクシミル信号の帯域が、数百サイクルの狭いものであるとの記載もあり、このような記載からみると、引用例にあつては、そこにいうフアクシミルが、いわゆる機械的走査手段(例えば、送信画像を巻きつけた円筒を回転することによつて走査する方法)によるものを念頭において記述されているものと解せられ、このような点をも併せ考えると、引用例には、右の機械的走査手段としての送信画像を巻きつけた円筒の回転運動を間歇的に行うことによつて、フアクシミル画像を構成する画素に対応する信号をテレビジヨン信号における垂直帰線期間を利用して間歇的に送信し、受信側においては、その再生のための運動を送信に合わせて間歇的に行つて、元の送信画像を再生する技術思想が開示されているとみるのが相当である。

ところで、原告は、引用例には、画素を間歇的に送受信する思想が示唆されているとしても、複数の画素からなる画素列を連続的に走査して得られる走査線信号を間歇的に送受信する技術思想までは全く示唆されていない旨主張する。

なるほど、引用例に記載されたフアクシミルは、前述のとおり、機械的走査による低速度のフアクシミルを指しているものと考えられ、また、その信号帯域が数百サイクルという狭いものであることを参酌すると、引用例の記載は、フアクシミル信号をテレビジヨン信号に間歇的に多重するに際し、フアクシミル画像を構成する画素に対応する信号を、間歇的に送信することを意味していると解されるのであつて、本願発明のように、右のような画素の列を走査して得た走査線信号を間歇的に送信することにまで言及しているものとは解し難い。

しかしながら、成立に争いのない乙第一号証の一ないし三及び弁論の全趣旨によると、フアクシミル画像を走査する手段としては、前述のような機械的走査手段によるものとは別に、テレビジヨン画像の走査と同様の電子的走査手段による高速度フアクシミルもいわゆるウルトラフアツクスとして本願発明の出願前より周知であつたことが認められ、また、成立に争いのない甲第九号証及び弁論の全趣旨によると、フアクシミル信号ではないけれども、一般にテレビジヨン信号に広帯域の別信号を挿入するに当り、テレビジヨン信号における垂直帰線期間中の水平同期パルスの間の一水平走査期間を利用することも、本願発明の出願前より周知であつたことが認められる。

そうすると、これらの周知技術を背景として、引用例に記載の前記事項をみれば、前掲乙第一号各証に示された高速度フアクシミルにおいて伝送される広帯域のフアクシミル信号についても、テレビジヨン信号における垂直帰線期間中の水平同期パルスの間の一水平走査期間を利用して、これをテレビジヨン信号に間歇的に多重することは、当業者において容易に推考できることであると解するのが相当であり、このように解することを妨げる特段の事情は見当らない。そして、前述のような周知の高速度フアクシミルにおいては、フアクシミル信号を構成する各走査線信号の周期がテレビジヨン信号における水平走査線信号の周期と同程度のものである(なお、前掲乙第一号各証によると、ウルトラフアツクスの線偏向回路は六ないし一六キロサイクルまで調節できる繰返し率で線掃引を行う旨の記載がある。)ことを考慮すると、前記フアクシミル信号における各走査線信号の周期をテレビジヨン信号における各水平走査線信号の周期と合わせることによつて、テレビジヨン信号の一水平走査期間にフアクシミル信号を構成する各走査線信号を一本づつ挿入できるようにすることも、容易に想到できる程度のことにすぎないものと解される。換言すれば、引用例に記載の方法のようにテレビジヨン信号に低周波のフアクシミル信号を多重する場合には、一垂直帰線期間に一画素程度に対応する信号のみしか挿入することができないかも知れないが、前掲乙第一号各証に開示されている周知の高速フアクシミル信号を多重するに当つては、その走査速度がテレビジヨン信号における水平走査速度と同程度であることからみて、その走査線信号を更に個々の画素に対応する信号に分解することなく、走査線信号のままで、これをテレビジヨン信号の一水平走査期間(主として垂直帰線期間内における)に挿入することを考慮することは当然のことであるということができる。

そうしてみると、審決の第一の判断は、その説示がいささか簡略にすぎるきらいがないではないが、本願発明の出願時におけるこの種技術分野における前記周知の技術を考慮してみれば、是認できるところであつて、その判断に誤りはないというべきである。

したがつて、審決の第一の判断が誤つているとする原告の主張は、採用できない。

なお、原告は、審決のその余の点については具体的に争つておらず、また、本願発明の特許請求の範囲の全体についてみても、本願発明は、前述のとおり、テレビジヨン信号に前掲乙第二号各証に示されているような高速フアクシミル信号を、その走査線信号を単位として、間歇的に多重する場合の当然の構成を規定した程度のものであると解されるから、審決のその余の判断についても誤りはない。

よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨および審決理由の要点は左のとおりである。

本願発明の要旨

標準テレビジヨン放送用ビデオ信号の信号源と、この信号源から発生される放送用ビデオ信号中の水平線走査用同期成分と垂直フイールド走査用同期成分とに応答して上記放送用ビデオ信号の一フイールド当り少なくとも一本の下記の走査線信号を挿入しうる時間関係をもつて発生する同期パルスを生成する手段と、この同期パルスの供給により作動して送信すべき二次元的な通信像を単一水平走査線の掃引時間に関連する掃引時間を有する複数の走査線信号からなるビデオ通信信号に分解して、このビデオ通信信号を順次に発生させるピツクアツプ装置と、上記ビデオ通信信号を上記放送用ビデオ信号中に一フイールド当り少なくとも一本の走査線信号の割合で挿入して複合テレビジヨン信号を形成させて送信を行う手段とを具備するテレビジヨン信号送信方式。

審決の理由の要点

本願発明の要旨は、前項に記載のとおりである。

これに対し、日本放送協会発行「技研月報」昭和三五年三月号の一四頁、一五頁(以下「引用例」という。)には、「フアクシミル信号を標準テレビジヨン放送用ビデオ信号にのせるのに垂直帰線を利用すること及び同期にはテレビジヨンの同期信号が利用できること」だけが記載されている。

ところで、フアクシミル信号も、結局は、送信すべき二次元的な通信像を走査して得られる複数の走査線信号よりなることが周知であるから、引用例に右のような記載があれば、フアクシミル信号を放送用ビデオ信号にのせるには、フアクシミル信号を構成する各走査線信号の周期をテレビジヨン・ビデオ信号の各水平走査線信号の周期に合わせるのが一番簡単であることは、当業者が容易に推考できることである。また、放送用ビデオ信号に他の信号を挿入して送信する場合、テレビジヨンの受像画面に影響を与えないために、右放送用ビデオ信号における垂直帰線期間を利用することは、多くの刊行物に見られるように周知であるから、引用例に前記のような記載があれば、フアクシミル信号を構成する複数の走査線信号のいくつかを、垂直帰線期間内に挿入することも、当業者が容易に着想できることである。そして、その際、垂直帰線期間内に何本の走査線信号を挿入するかは、単なる設計上の問題と認められるところ、少なくとも一本の走査線信号を挿入することは当然のことである。

なお、フアクシミル信号を構成する走査線信号がテレビジヨンの受像画面に現われるのを意に介しないときは、それらの走査信号のいくつかを垂直帰線期間以外の場所に挿入してもよいことはいうまでもない。そうすれば、フアクシミル信号を放送用ビデオ信号中に一フイールド当り少なくとも一本の走査線信号の割合で挿入して複合テレビジヨン信号を形成させて送信を行うことは、引用例の前記記載から当業者が容易に推考できることである。そして、そのために、放送用ビデオ信号中の水平線走査用同期成分と垂直フイールド走査用同期成分とに応答して放送用ビデオ信号の一フイールド当り少なくとも一本の走査線信号を挿入しうる時間関係をもつて発生する同期パルスを生成する手段と、この同期パルスの供給により作動して送信すべき二次元的な通信像を単一水平走査線の掃引時間に関連する掃引時間を有する複数の走査線信号からなるビデオ通信信号に分解して、このビデオ通信信号を順次に発生させるピツクアツプ装置とを具備させることは、当然の設計事項にすぎない。

よつて、本願発明は、引用例に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものであると認められるから、特許法第二九条第二項の規定により特許を受けることができない。

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